監修:周南記念病院大腸肛門外科 竹重元寛
資格:日本大腸肛門病学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本外科学会指導医・専門医
休診日 |
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土曜日・日曜日・祝日 お盆休み:8月15日 年末年始:12月30日~1月3日 |
監修:周南記念病院大腸肛門外科 竹重元寛
資格:日本大腸肛門病学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本外科学会指導医・専門医
(付)大腸がん検診について
当院では便潜血反応陽性者に対しての大腸の精密検査は
拡大内視鏡(NBI併用)で行なっています。
「痔」とは、肛門のいろいろな疾患を総称する名前です。
人類が出現して二本足で歩き始めた瞬間から、人類の宿命とも言える「痔」も出現しました。ヒトのおしりは四つ足動物と違って心臓より低い位置にあるので、立って歩くにしても椅子に座るにしてもうっ血しやすくなっています。「痔」は俗に"瘀血の証"とも言われています。瘀血(おけつ)の"瘀"とは血がとどこおる意でして、肛門に血がとどこおった時に「痔」の症状が起こります。
痔は「痔主」と言われるほどポピュラーな病気ですが、命に直接関わらない上に人前では話しにくい病気のため、自己流の治療で無駄な時間とお金を費やしたり、ひどい場合には誤った治療法を受けて取り返しのつかない肛門になってしまうこともあります。また、痔だとばかり思っていたら、実は癌であったため手遅れになってしまった不幸な患者様もいます。
ここでは、「痔」の本体、成因、症状、治療について解説し、最後に「痔」の予防法、及び応急手当てについて概説します。
「痔」は次の三つに大きく分けられます。
<痔核の本体>
直腸下端部から肛門のまわりには網目状の血管(静脈)があります。この静脈が膨らんでこぶ状になったものが痔の本体です。直腸下端の粘膜下(歯状線より内)にできたものを内痔核と言い、肛門上皮下(歯状線より外)にできたものを外痔核と言います。内痔核の主な症状は出血と脱出で、通常は痛みがありません。これに対して外痔核は出血しませんが、血栓ができて腫れると痛みます。
<痔核の成因>
以前は、血管起源説といって長期にわたる直腸肛門部の静脈叢のうっ血が血管の壁を過伸展させて静脈瘤を形成した病変と言われていましたが、最近の学説では、クッション組織の滑脱説が痔核の成因として有力です。
肛門管上皮の粘膜下には、肛門のうちばり装置として肛門管上皮の支持にあずかっている筋繊維があり、これを肛門クッションと言います。この肛門クッションが肛門閉鎖機能に関わっているのですが、長年の怒責の繰り返しによってクッション組織に負担がかかり筋繊維が伸展、断裂して、クッション組織が滑脱したものが痔核であるとする説です。
<痔核の症状>
内痔核の場合は排便したときに血が出る、便が残っている感じがするなどが主な症状です。
進行すると排便のたびに脱出するようになります。これを脱肛と言って、排便が終ると自然に肛門内へおさまるのが普通ですが、指で肛門内へ押し込まなくてはいけない場合もあります。肛門内へ戻らなくなった場合を嵌頓痔核と言いまして、痔核がうっ血して赤黒く腫れて急激な痛みを伴います。それに対して、血栓性外痔核の場合は肛門のふちに痛みを伴ったイボが突然出現します。
<痔核の治療>
出血や痛みに対しては保存的治療を主にします。肛門を清潔にして温め、便秘や下痢にならないように便通を整えます。食事療法だけでは便通が整わない場合には、整腸剤や緩下剤を服用します。それに加えて、坐薬や軟膏を使用し、症状に応じて鎮痛剤や抗炎症剤を服用します。血栓性外痔核に対しては保存的治療を主にしますが、日帰り手術で簡単に治せる場合もあります。内痔核の治療法に、注射療法という治療があります。出血する内痔核や脱出痔を手術せずに治す治療法です。硫酸アルミニウムタンニン酸(商品名;ジオン)とう言う注射液を痔核の周囲に注射する方法です。
その他、ゴム輪結紮法、レーザー治療などがありますが、脱肛の治療は手術が原則です。手術的治療法は、以前はホワイトヘッド手術といって痔核を環状に切除する方法を行っていましたが、粘膜脱などの後遺症が多いということで、専門医の先生方は施行しなくなってきました。現在では結紮切除法という手術が主流です。いずれにしても専門医での手術をおすすめします。ただし、痔は良性の疾患であるため、手術の適応は患者様が脱肛を治したいかどうかで決定します。脱肛があっても気にしない患者様には、手術の適応がないと考えています。
<痔瘻の本体>
肛門の周囲が化膿し自然に膿が出た後、穴がふさがらずいつまでもそこから膿が出続けたり、治ったと思ったらそこが腫れてきて繰り返し膿が出るような状態です。
<痔瘻の成因>
肛門と直腸の境界を歯状線と言います。この歯状線にある陥凹部(肛門小窩)から細菌が侵入し肛門腺が化膿し膿瘍(膿のたまり)となった状態を肛門周囲膿瘍と呼びます。たまっている膿が広がり、ついに皮膚を破って排膿し、その口がいつまでたってもふさがらず、肛門内とつながった管を形成したものを痔瘻と言います。
<肛門周囲膿瘍・痔瘻の症状>
肛門周囲膿瘍の場合、発熱、痛み、腫れがみられます。痔瘻は、膿が出て下着が汚れます。膿の出口がふさがり、再び膿がたまると肛門周囲膿瘍と同様の症状になります。
<痔瘻の治療>
膿瘍の時期には切開して膿を出す必要があります。手術後も抗生物質、消炎鎮痛剤を服用し治療をします。痔瘻を放っておくと瘻管が枝分かれして複雑化したり、痔瘻癌になることがありますので早めの手術をおすすめします。手術的治療法には、切開排膿法、瘻管くりぬき法などの括約筋温存術があります。最近では、シートン手術法が簡便で根治性が良いと言われています。いずれにしても、肛門の括約筋機能を温存する手術法が主流です。
<裂肛の本体>
歯状線と肛門縁(肛門と殿部の境)の間の肛門上皮に発生した創を裂肛(切れ痔、裂け痔)と言います。
<裂肛の成因>
古くから、便の通過による肛門上皮の機械的な外傷が生じ発生したものと考えられていましたが、現在ではこの機械的刺激に加えて、内括約筋の痙攣やそれにともなう肛門上皮の虚血状態も裂肛の病態に強く関与していると考えられています。慢性化すると潰瘍となり、潰瘍の口側に肛門ポリープが、肛門側には皮膚痔(みはり疣と言う)が形成されます。後に、肛門が細くなり排便困難となることもあります。
<裂肛の症状>
出血は少量で、排便後もしばらく続く痛みが起こります。慢性化すると潰瘍になり、肛門が狭くなってしまうこともあります。
<裂肛の治療>
裂肛は、急性期と慢性期に分類されます。急性期は保存療法が基本で、食生活や排便習慣などのライフスタイルを改善し、症状を悪化させないようにする「生活療法」が中心です。補助的に「薬物療法」も行います。慢性期の治療も原則は保存療法ですが、改善しない場合は手術的療法を行います。手術的療法には、内括約筋側方皮下切開術、用手肛門拡張手術、皮膚弁移動術などがあります。詳しく専門医にご相談ください。
以上、大腸肛門外科で遭遇する病気について説明いたしました。血便、肛門の痛み、肛門の脱出感、肛門の腫れ、腹痛、便通異常、貧血、体重減少などの症状がありましたら、大腸肛門外科を受診することをおすすめします。